どんな組織でも、今までのやり方を変えようとすると必ず反発が起きます。
特に現場のやり方を本社の人間が変えようとすると反発は激しくなります。
何が正しいのかではなく、どちらが強いのか偉いのかの現場VS本社の戦い。
新規のプロジェクトでは、よくある風景です。
こうした状況で、どちらかにミスが発生するとどうなるか…。
相手のミスにつけ込んで攻める。
ミスした側は「担当者の責任」で逃げようとする。
この担当者に自分がなってしまったら…。
周りの目が「犯人」を見るように冷たい。
敵だけでなく味方からも相手にされない。
組織内でスケープゴートにされてしまう。
そんな状況を体験できるのが横山秀夫著の「動機」です。
(以下、あらすじネタバレが含まれます。)
「動機」のあらすじ、読みどころ
主人公は県警本部に務める44歳の企画官。
入院中の警察官だった父を見舞っていると部下から携帯に電話が入ります。
「お休みのところすいません」
「お手数ですが有線連絡願います」
緊急事態発生。
一括保管していた警察手帳が盗まれてしまった。
全部で30冊。
警察手帳の一括保管は主人公が導入した新制度だった。
目的は手帳の紛失事故防止。
これまで通り一人一人が保持していれば、一度に30冊も盗まれることはなかったのに。
裏目に出てしまった新制度。
保管場所から考えて内部犯行としか思えないが…。
刑事部の反対を押し切ってまで導入した制度が…。
犯人探しと同時に始まるのが、責任者探し。
誰のせいでこんな事態になったんだ!
新制度を導入をした企画官の責任だ!
警察手帳を盗んだ犯人は?
この状況で主人公の企画官にできることは?
というのがあらすじです。
この小説が気に入ったのは本社側(現場ではない側)の立場で書かれているところです。
企画官(本社側)対刑事部(現場側)のやりとりが読み応えあります。
「本社は現場のことが分かっていない」というお決まりのパターンは飽きました。
本社には本社の立場があるし、現場には現場の立場がある。
どちらにも、自分たちの立場しか考えていない人間もいるし、
どちらにも、自らの立場を超えたことを考えている人間もいる。
こうした当たり前のことを再認識できます。
また、主人公が「ピンチの時に思考が固まっていないか?」「自分に都合の良い理屈に固執してないか?」と振り返るあたりは、自分がピンチになった時のヒントにもなりそうです。
ミステリーとしても面白い。
タイトルが、なぜ「動機」なのかは、読んでみてナルホドです。